2017年11月20日
社会・生活
研究員
平林 佑太
地下鉄九段下駅を降りて、旧江戸城田安門(重要文化財)をくぐると左手に美しい裾野を引く富士山のような大屋根の建造物が目に飛び込んでくる。日本人ならば、知らぬ人はいないであろう武道の聖地「日本武道館」である。
日本武道館は、1963(昭和38)年10月に着工し、突貫工事によってわずか12ヵ月で完成した。直後に開催された東京オリンピックでは、初めて正式競技に採用された柔道が国内外の大きな注目を集めて盛大に開催された。以来、武道競技大会にとどまらず、音楽コンサートや各種イベントをはじめとした集会等で利用され、日本人に親しまれてきた。この日本武道館が、2020年東京オリンピック・パラリンピックで柔道と空手の競技会場となったことで、再び"世界の競技場"としての重責を担うことになった。
大道場(アリーナ)と呼ばれる競技会場へは正面入口を入ってすぐ横の地下に通じる階段を下りていく。下りきった先にある重厚な扉を開けた瞬間、初めて足を踏み入れた人はあまりの壮大さに思わず息を呑むはずだ。競技会場を取り囲むように設けられた1~3階までの最大総数14471(アリーナ席含む)もの客席を見上げる光景は、まるで古代ローマ帝政時代のコロッセオ遺跡を彷彿とさせる。さらに天井中央に掲揚されている縦8m×横12mの巨大な日章旗がより迫力を増す。
筆者も年に数回この場で競技をする機会をいただいている。競技イベントがない日は、怖いほど静寂に包まれている大道場も、いざ競技が始まると会場内を熱気が包み込み、様変わりする。日本武道館での競技中は、ときに想像を絶するような緊張感に包まれて満足な力を発揮できずに終わることがある。一方で、自分でも思ってもみなかった高いパフォーマンスが発揮され、不思議な感覚を覚えるのもまた事実。ここには何かが棲みついているのか―これぞまさに、武道の聖地といわれるゆえんなのかもしれない。
日本武道館では、今月、全日本剣道選手権大会をはじめさまざまな競技イベントが開催されている。しかし、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた耐震化やバリアフリー化の改修工事等で、19年9月からは一般利用ができなくなるという。今の日本武道館で競技できる機会も残りわずか。それでも、3年後に半世紀の時を経て、今度はリニューアルされた日本武道館で世界各国の選手と観客を魅了する熱戦が繰り広げられるであろう光景を今から想像せずにはいられない。
(写真)筆者
平林 佑太